風天 渥美清のうた

渥美清さんの句が世に知られるようになったのは、彼の死後。俳号は風天。主宰者を置かない同好の句会に参加し、句を詠むこと、そのことを楽しみにしていた。
同好の句会とは、「アエラ句会」「話の特集句会」等々。素人ばかりの遊びの句会であった。「アエラ句会」ではいつも静かに壁に向かって句を詠み、終われば黙って姿を消してしまうということであったらしい。句会では「会計の渥美清です。」と自己紹介。
「話の特集句会」…素人の集まりとは言え、永六輔、小沢昭一、岸田今日子、色川武大、吉行和子、山藤章二、和田誠他…驚くばかりの顔ぶれである。
本書は、そのいくつかの句会で詠まれた風天の句を丹念に集めて紹介。併せて、渥美さんの知られざる一面を語っていくというもの。
やさしい眼差しと静かで哀愁のある渥美さんの句に触れることができた一冊であった。

中でも好きな句をいくつか…

名月に雨戸閉ざして凶作の村
好きだからつよくぶつけた雪合戦
いみもなくふきげんな顔してみる三が日
テレビ消しひとりだった大みそか
鍋もつておでん屋までの月明り
はえたたき握った馬鹿のひとりごと
芋虫のポトリと落ちて庭しずか
赤とんぼじつとしたまま明日どうする
村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
いわせれば文句ありそなせんべい布団
年賀だけでしのぶちいママのいる場末
達筆の年賀の友の場所知らず
小春日や柴又までの渡し船

渥美清のうた   森英介 著  大空書房