辰巳芳子さんのドキュメンタリー番組を見て、買ったのがこの書。
手しおにかけるとは、「深い愛情の積み重ねを日々の生活に忠実に行うことである。」と言う。
また前書きには、こうある。
「・・・つくりたいとお思いになるところだけ拾い読みせず、一度は初めから終わりまで通読していただきたいのです。・・・つくりたいところだけ拾うという取り組み方は、自分のしていることが、本当はわかっておらず行動する方の動きに似ているように思います。通読してのち、必要に応じた頁を開いていきますと・・・これで、はじめて、真の意味で、仕事の段取り、回転ができる方となり・・・」
ただの料理指南書ではない。読む者にも背筋の伸びた姿勢が要求される。
「だしとは何か」から始まる。 曰く、「…日本料理は、焼きもの以外、汁もの、煮もの他、だしの力によって美味しく、食べよくできており、知らず知らず、その養分が体力となるようになっている。」
出来上がりのだしを買うという発想はこの書にはない。だしの材料となる素材と選び方、そして基本のだしのつくり方が解説される。恥ずかしながら「一番だし・二番だし・煮干しだし」という言葉は聞いたことはあったが、その何たるかを初めて知ったしだい。
日本料理を具体的、実践的な視点から論じた素晴らしい文化論としても大変価値のある書であると言えよう。昨今、「食育」という言葉がもてはやされているが、なんとこの書の骨太なことか。
紹介されている四季折々の家庭料理は、260余点。つくるつくらないは別にして、日本の家庭に是非一冊と思う。
「手しおにかけた私の料理」 辰巳芳子 婦人之友社