死の淵を見た男 門田隆将

多くの関係者への丹念な取材により、福島原子力発電所の事故現場の様子を伝える書。
東北大震災よりおよそ一年半後の2012年12月に上梓されたルポルタージュです。
この書をもとにした「Fukusima 50」、封切の時期とコロナ感染症の拡大時期が重なったため劇場で観ることが叶わずにいたのですが、先週テレビでやっと観ることができました。
あの状況の中、命をかえりみず、放射能に汚染された真っただ中に突っ込んでいった東電社員、自衛隊員たちの姿がありました。取材した筆者が一番に驚いたことは、「彼らは、彼らがとった行動を当然のことと捉え、今もってあえて話す必要がないと思っていたこと。」だと後書きに記しています。
映画もよかったですが、現場での出来事を克明に知るには、本書をお読みになることをお勧めします。

原子力発電所の急所は「全電源喪失による冷却不能」に陥ることです。1992年、原子力安全委員会は、「30分以上の長時間の全電源喪失について考慮する必要はない」とし、安全指針の改訂を見送っていたことが2012年に明らかになりました。そのようなことは起こりえるはずがないという過信があったのでしょう。過去を問うことにもっぱらな昨今の風潮を感じますが、よりよき未来のためになすべきことを、併せて語ることが必要なのでは・・・と思えてなりません。