檀林皇后私譜  杉本苑子

檀林皇后とは、嵯峨天皇の皇后であった橋嘉智子のこと。京都嵐電の駅に帷子ノ辻という駅がありますが、「帷子の辻」は、橋嘉智子が風葬されたと伝わる地。嵯峨天皇が当時離宮で大覚寺の大沢池で、菊ガ島に咲く菊を花瓶に挿されたことから始まる生け花の流派が嵯峨御流など、これまで点として知っていたことが線としてつながった書でした。

光仁天皇のころから桓武・平城・嵯峨・淳和・仁明に至るあたりまでがこの小説の舞台となっています。この時代は馴染みが薄かったのですが、本書に触発され、いろいろと調べてみますと、怨霊の跳梁、母子相姦、天変地妖の続発、陰謀や毒殺、政変などなど、波瀾万丈の時代。

平安朝三百年間は、藤原氏の絶頂期。中でも摂関の地位を独占したのは藤原北家。「檀林皇后私譜」に描かれる北家の内麿・冬嗣、南家の三守、武家の百川・緒嗣・ 種継・仲成らを輩出したころは、他族・同族間の排除や蹴落としなど、もっとも藤原家の本性を発揮したピークの時代であったようです。空海や最澄、坂之上田村麻呂、小野篁などが活躍したのもこの時代。
「藤原氏はじつに恐ろしい氏族でして、この門葉の勢力の消長をたどってゆくことで、日本史の本質や問題点の多くを解明できると言っても言いすぎではありません」とは著者杉本苑子の言葉です。

橘嘉智子と橋逸勢を縦軸に描かれた平安朝初期の物語、秋の読書初めの一冊でした。