イヌノフグリ

イヌノフグリ 敦賀市 中池見湿地

別名「星の瞳」…こちらの名前のほうがいいかもしれませんね。

大好きな詩のひとつを紹介します。

イヌノフグリ  片岡文雄

共通語だったら

これが イヌノフグリなの
教えて下すった女先生は
メガネいっぱいに笑っておられる
かわいいでしょ
とつまみあげられた
ぼくは犬のふぐりのかたちを探した
犬から ぽおおんと
もぎとったものは
しかし どうしても見えなかった
先生は もうずんずん
堤の先を行っておられた
淡いむらさきの花
あらわで さっぱりと
あるかなきかをくるんでいる
葉っぱ
これが イヌノフグリなの
と教えて下すった先生の
にこっとなさるメガネに
いまも イヌノフグリが
咲いて見える。

高知ぢゃったら

これが
イヌノフグリと言わぁね
そう言うて若いオナゴの先生は
メガネいっぱいに笑いよる
かわいらしいろうがね
そう言うて 小指をぴんとはねてからに
オナゴ先生はつまみあげよる

ぼかあ フグリちなんかわからんき
フグリちなんぞ?
海におるフグみたようなもんか?
と問うてみた
あら あんた知らんが?
と言うてから
オナゴ先生はぽおっと顔を赤うにしよる
けんど言うてくれた
子犬の股に付いちょるもんよね
あんたの股にも付いちょるもんよね

そうわかると ぼかあ
犬のふぐりのかたちになっちょるかどうか
みんなあが糸目と言うてぼくをバカにする
ちんまい目を引きしゃいて見てみた
けんど
犬から ぽおーんともぎ取っちょるもんは
どういても見えん
ぼくのがみやようなもんも
どういても見えん

オナゴ先生は もうずんずん
堤防の先を行きよる

これが
イヌノフグリと言わあね
と教えてくれたオナゴ先生の
にこにこしよるメガネに
いまも
イヌノフグリが咲いて見えよる。

詩集「いごっそうの唄」より…