若州一滴文庫 July, 2015

若州一滴文庫

作家水上勉さんが、故郷おおい町に建てた施設。山裾にひっそりとたたずみ四季折々の景色が楽しめそうなところ。
本館には水上氏の蔵書約二万冊、斎藤真一氏・渡邉 淳氏等の絵画が常設展示されている。本日は、須田剋太氏の絵画が特設展示。梅原 猛氏・筑紫哲也氏・倉本 聰氏・瀬戸内寂聴氏・広中平祐氏他、水上勉さんゆかりの方々が竹紙にかかれた書画も展示されている。本館隣の竹人形館には若州人形座の竹人形が展示されている。

『たった一人の少年に』 水上 勉

ぼくはこの村に生まれたけれど、
十才で京都に出たので
村の学校も卒業していない。
家には電灯もなかったので、本もよめなかった。
ところが諸所を転々として、
好きな文学の道に入って、本をよむことが出来、
人生や夢を拾った。
どうやら作家になれたのも、本のおかげだった。
どこかに書庫をと考えたが、
生まれた村に図書館を建てて、
ぼくと同じように本をよみたくても買えない少年に
開放することにきめた。
大半はぼくが買った本ばかりだ。
ひとり占めしてくさらせるのも勿体ない。
本は多くの人によまれた方がいい。
どうか、君も、この中の一冊から、何かを拾って、
君の人生を切りひらいてくれたまえ。
たった一人の君に開放する。
昭和60年3月8日

若州一滴文庫 「一滴の思想」

江戸時代、岡山曹源寺の雲水が、湯槽に水を入れたあとの残り水を無造作に庭へ捨てところ、「一滴の水も草木の根にかけてやれば花となり葉となってよろこぶものを、もったいないことをする。」と老僧に叱られました。雲水はその言葉に悟り名を適水とあらためました。後の天竜寺官庁 由利適水です。雲水を叱った老僧が儀山善来(文化二年生まれ)、「若州一滴文庫」のあるおおい町旧大島村の出身だということ。