句集 仰げば北斗  加藤草太郎

加藤草太郎さんの句集「仰げば北斗」をいただいた。俳句は人柄と言うけれど、できることならお会いして話をしてみたかった、その人柄が偲ばれる。
埼玉県にある城北中学校・高等学校の校長・学園長を務められ、退任後、地元の句会や水明俳句会で活躍されていた。


俳句はおもしろい
今の心のありようが見えるから
俳句は手軽だ
書く道具さえあればどこでも作れる
雨でも晴れでも寒くても暑くても天候には関係ない
悲しいことも嬉しいことも時には自分の病だって句材になる 
俳句はどんな芸事より簡便な表現活動だ
私は近頃床に就く時決まってリュックに
ペンとノートと電子辞書とサイフを詰め込んで置く 
突然のことに見舞われてもこれらがあれば当分は凌げるからだ
上手下手ではない
俳句で今の心のありようが残せればよい

加藤草太郎 (平成三十年三月熊谷句会発行『熊谷草』より)

春めくや廊下を走る一教師
孝行はしたかと笑ふ里の山
春灯まだ伸びてゐる生命線
春は曙妻の目覚しまだ止まぬ
あてどなき旅のをはりの桜貝
緑さす生徒五人の分教場
ほとぼりの冷めて貌だす蝸牛
場所などは選ばず蝉の大往生
宣誓の右手真直ぐ雲の峰
ちぐはぐな母との会話半夏生
麦秋やゴッホの耳を捜す絵師
八月をそつと生きてる癌病棟
学食の恋愛談義ソーダ水
蜩やわたり廊下のながき宿
チャペルいま祈りの時間小鳥来る
介添の妻が差し出す秋の水
草の実をつけて句の座に戻りけり
病床に色なき風の色さがす
枕辺の重き水指し菊の宿
生きてゐる枝は上向き冬木立
恙無く生きて幸せ冬日和
夜祭りに酔うて仰がば冬北斗
一隅に在るも生き方寒椿
追憶はみな美しく冬桜