字幕の花園  戸田奈津子

字幕翻訳者の第一人者、戸田奈津子さんのエッセイ集。映画にまつわる戸田さんのエピソードの数々、読んで楽しい一冊でした。

数年前でしたか、戸田奈津子さんが「サワコの朝」に出演された時も、とても興味深い話をされていました。以下、メモ書きです。

字幕を作るときの大事なルール・・・「1秒間に3文字」
3秒間で話される英語のセリフは、9文字で日本語の字幕をつくる。5秒間で話される英語のセリフは,15文字で日本語の字幕をつくる…ということ。
例えば4秒で話される英語のセリフの字幕
直訳 ⇒ 「俺たちを見ろ!俺たちはまだ死んでいないぞ。みんなが俺たちを笑っている。全世界が俺たちを笑っている。」  42文字
意訳 ⇒ 「世間の物笑いのまま終わりたいのか。」  17文字
原文が何を言いたいのかを頭にいれ,そこからエッセンスを取り出して日本語にしている。直訳ではなく、役者の気持ちを伝えるため、役者の気持ちになってセリフを考えている。

日本語の字幕文化を考える
最近の映画は吹き替え版が多くなってきたのは、活字離れがおこり、日本語がわからない日本人が増えてきたのがその主たる原因。それなら日本語を教えればいいということになるが、そうはならない。映画会社は,客をたくさん呼びたいから,客に合わせて、日本語のレベルを下げることを字幕作成者に要求する。例えば…少しと難しい漢字を使うと,若い子に読めないから平仮名にしてくれと字幕作成者に要求する。(すなわち、字数が多くなる)

カタカナの映画のタイトルが多くなったのは・・・
以前は,外国映画の題名に邦題(日本語の題)がついていた。
Gone with the wind→「風と共に去りぬ」
Bonnie and Clyde→「俺たちに明日はない」
ところが最近の外国の映画の題名は,カタカナがやたら多くなった。
Avengers→「アベンジャーズ」
The Lord of the Rings→「ロード・オブ・ザ・リングズ」
ようするに,英語の題名の音声をカタカナで書いて邦題にしているということ。

何故、そうなったのか?映画の邦題を考えるのは,映画会社の宣伝部の仕事。以前は,アメリカで公開される映画は,その1年後に日本で公開されていた。だから,映画の内容を見て,邦題を考える時間があった。現在は,世界同時公開が普通になった。インターネットで映画の英語の題名が、瞬時に広がり誰でも知っている状態になる。そのため、ゆっくりと映画の邦題を考えている時間が取れないのがその理由。

映画の字幕作成者を志している若者へ
英語ができれば字幕ができると思うのはとんでもない間違い。まず,日本語ができないと話にならない。日本語の語彙が豊富でないと訳するときに適切な言葉を見つけることができない。日本語と英語の両方をしっかり勉強すること。

字幕の花園  戸田奈津子