季語を食べる  尾崎和夫

俳句をするしないにかかわらず、食べることと飲むことに興味をお持ちの方なら、どなたでも楽しめそうな一冊です。
読み返したい本はいつでも読めるように机の上に置いているのですが、その中の一冊になりました。
著者の尾崎和夫氏は、地震学を専門とする地球科学者。京都大学の総長を務められたあと、現在は静岡県立大学の学長、そして、俳人として氷室俳句会の主宰をされています。
若いころはあちらこちらに出かけられたそうで
「現在の現象を現場で詠む」ことを作句のモットーにして、「季節感を体に持ち込むために料理屋に出かけたことは何回もある。総じて、俳句を詠む人たちの多くは食べることと飲むことに、たとえ高齢になっても熱心である」
「国内、国外を問わず、初めての土地では何はともあれ、その土地のものを食べて飲む。知らない食材と珍しい食べ方については、くわしい人を探して聞く。家族に報告するために自分で調理して紹介する習慣ができて、知識が深まり定着する。・・・中略・・・そこから土地の文化に触れる糸口が得られる」という言葉に至極納得。
虎杖、浅蜊、茄子、秋刀魚、牡蠣、他多数・・・旬の時期に食べたい食材であり、季語にもなっています。
一般の歳時記にある説明とは一味も二味も違い、エッセイ風かつ科学的解説が実に楽しく、紹介されている手順で料ってみようかというページもいくつか。
第一章は食べ物 第二章は、春の水、甘酒、麦酒など飲み物に関する季語について、第三章の「健康と生命維持」、第四章の「稲と米の四季」の章では、地球科学者ならではのお話。
たのしい一冊でした。

やさしさごはん

やさしさごはん  河原希美  KADOKAWA

身体にやさしい野菜料理のレシピ集。野菜一品と自宅にある普段使いの調味料で、手軽につくれる料理のレシピばかり。
レシピに従ってつくってみると、とってもやさしい味の野菜料理が完成。ページをめくりめくり、あれやこれやと作りたくなってきます。
「体は食べたものでつくられる。心は聞いた言葉でつくられる。未来は話した言葉でつくられる」とは、たしか北原照久さんの言葉だったと思うのですが、食というものを考えてみることのできる一冊でもありました。

名馬 風の王

マーゲライト・ヘンリー
講談社 青い鳥文庫

宮本輝の「優駿」は競馬界に題材をとった物語。宮本輝のあとがきに、以下のような一文がありました。
「すぐれたサラブレッドというものが、いかにミステリアスな要素によって造形されているかに心魅かれたのはおとなになってからですが、その萌芽は、思い起こせば小学校五年生のときに、こよなく馬を愛した作家、マーベライト・ヘンリー女史の『名馬・風の王』によって、私の心に住みついていました。この小説は、アラビア馬ゴドルフィンの数奇な運命を、少年少女のために虚実織り交ぜて構築された名作です。もし、私が少年期に、『名馬・風の王』を読んでいなかったら、私の『優駿』が、このように形をなすことはなかったでしょう。」

「優駿」を読んで以来、読んでみたいと思っていたのですが、既に絶版。古書店では、どの店も二万円前後の値がついており、購入を躊躇していました。このあいだ、県立図書館の蔵書にあることがわかり、さっそく借りてきました。

モロッコの牡馬シャム(後にゴドルフィンと名づけられる)と馬屋係の少年アグバは、数奇な運命に導かれ、モロッコからフランス、そしてイギリスへと渡っていきます。牢獄にいれられたり、離れ離れになったりと苦労の日々の中で、互いに支え合うように生きるシャムとアグバの物語。ゴドルフィンとは、「神の夜明け」という意味だそうです。
サラブレッド三代始祖の一頭であるゴドルフィン・アラビアンの血を受け継いだ競走馬は、世界中で、いまもなお走り続けています。

絶版になってしまっているのが残念。子どもたちに読んでほしいと思う一冊です。

優駿 宮本 輝

オラシオンの誕生からダービーに出場するまでの三年間、オラシオンに関わる人々の生きざまが語られる。オラシオンとは、スペイン語で「祈り」を意味する。
宮本輝氏ならではの巧みな筋立て。物語後半の、ダービー選の模様はその二分数十秒の戦いを迫真の筆致で描く。
競馬界のことについて、いろいろなことを知りえた一冊でもある。
物語の中でサラブレッドにつてついて、宮本輝は、馬主となる和具平八郎にこう言わせている。
「生き物はみなそれぞれに美しい。だが人為的に作りだされてきた生き物だけがもつ不思議な美しさというものが確かにある。サラブレッドの美しさが、その底に、ある哀しみに似たものをたたえているのは、他のいかなる生き物よりも過酷な人智による淘汰と、その人智だけでは到底計り知ることの出来ない生命との対立によって生み出されて来たからなのだ。」

経済安全保障 北村 滋

スパイ天国と言われ続けた日本、警視庁外事課長時代に扱った事件を例にその実態を紹介。続いて、経済安全保障の概念、具体的な内容についての解説は、とても分かりやすい。

「これまで、日本の行政法には安全保障の観点はなかった。つまり、我が国の基幹インフラに外国からの攻撃があっても、また、それが脆弱性を抱えていても、国がそれを守るための仕組みがなかったということだ。戦後、自ら国を守るという意識を欠いたまま、経済を肥大化させる歩みを続けてきた日本。(世界の状況が混沌とするなか)、経済安全保障が死活的に重要な時代が到来した」と北村氏は述べる。

一読の価値が十二分にある一冊だった。

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谷中、花と墓地  E.G.サイデンステッカー

独りでの花見はたいてい谷中に決まっていた。どの国においても、墓地は美しい。東京の墓地も例に漏れない。上野のれん会のタウン誌「うえの」に掲載されていたサイデンステッカーさんの随筆集。図書館で借りて読んだのだけれど、読後、手元に置いておきたいと思った一冊。読んでいて、文章がとても心地よいのです。著者は、定年後、アメリカと日本を半年ずつ住む暮らしを続けていたとのこと。東京で暮らすのは梅の花の初春から花菖蒲の咲く初夏まで。日本の春の花々をたのしみたいというのがその理由のよう。まったく、読んでいると著者といっしょに花を愛でながら東京の下町を散策しているような気分になります。ほんとうのところ、東京の下町をゆっくり歩いたという経験はなく、せめて一週間ほど滞在して、随筆の場所を訪れてみたいと思いました。できれば春に。失われつつある日本の文化への警鐘もあり、幾度となく読み返したい書です。

「小津映画」の章より
・・・ところで、小津の映画に出てくる人物たちはみな行儀が良い。というのは、単に礼儀作法が良いということではない。役に応じたそれぞれの人物たちの控え目な会話やしぐさの中に、人間的な温もりを感じられるということである。それは小津が創り出した虚構の人物では決してない。映画の背景を支えている日本文化が持っていた本来の美質だ。 
最近の日本は「国際化」という意味不明な掛け声に埋もれているが、その一方で、世界が認めているはずの大切な文化がどんどん壊されているのだから皮肉な話である。国際的であるためには、確立された自国の豊かな文化をまず身に纏うことである。己の土台をないがしろにして他に認めてもらうことはできない。・・・

リボルバー 原田マハ

2019年6月19日
19世紀のオランダの画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)が自殺に使用したとされる拳銃がパリで競売にかけられ、約2,000万円で落札された。
出品された銃は7ミリ口径のリボルバー。赤錆がうきボロボロの状態だった。落札したのは電話で参加した個人の収集家。名前は明かされていない。

ストーリー・テラー原田マハが語るゴーギャンとゴッホの物語。
史実に基づいたフィクションと巻末にことわり書きがありますが、楽しめた一冊でした。

人形文楽「五番町夕霧楼」

若州竹人形座公演  人形文楽「五番町夕霧楼」 若州一滴文庫

コロナ禍も少しおさまり、二年ぶりの若州竹人形座公演に行ってきました。会場の若州一滴文庫は、梅雨の晴れ間。京阪神から来られた方も多く盛況でした。

今回の演目は、水上 勉原作「五番町 夕霧楼」・・・金閣寺放火事件と水上 勉氏自身の実体験が題材になっている作品です。

会場の若州一滴文庫のことを少し… (#^^#)

水上勉さんが、故郷 福井県おおい町に設立した若州一滴文庫、山裾にひっそりとたたずみ四季折々の風情が楽しめます。水上氏の蔵書約二万冊の図書室他、水上 勉さんゆかりの方々の絵画、書、若州人形座の竹人形等が展示されています。昨年は、水上 勉さん生誕百年の年、庭に記念樹が植えられていました。

トップガン マーヴェリック

本作の監督ジョセフ・コジンスキーが、前作「トップガン」を劇場で観たのは12歳の時だったというのには驚き。36年ぶりの続編は、懐かしい名曲「デンジャー・ゾーン」とともに始まります。

劇中、アイスマン(バル・キルマー)が、マーヴェリック(トム・クルーズ)に伝える言葉 “It’s time to let go” が印象に残りました。字幕は戸田奈津子さん、戸田さんならではの訳は映画を観てのお楽しみ。
劇中アイスマン(バル・キルマー)は、マーヴェリック(トム・クルーズ)とタイピングしてコミュニケーションを取ります。バル・キルマーは、実際にも深刻な咽頭癌と闘病しており、声を失ってしまっています。マーヴェリックとの別れ際、アイスマンが絞り出すように話す唯一の音声はAI技術を使ってキルマーの本当の声から再生したものだそうです。

さて、ジェニファー・コネリー演ずる爽やかな女性ペニー・ベンジャミン。前作で見たような記憶がなく調べてみましたら、なんとセリフの中だけでその名前が語られていました。今回は重要な役どころ。

コンピュータグラフィックは使用せず実写でとの方針通り、F18の戦闘シーンはすべて実写。この迫力は是非、劇場で・・・と思います。