空飛ぶタイヤ

実話に基づく池井戸潤の小説。とても感動した小説だったので、映画を鑑賞してきた。
タイトな仕上がり。長瀬智也扮する赤松社長に共感を覚えつつ、痛快な結末を迎える。エンドロールに流れるサザンオールスターズの主題歌もよかった。

実際の事件が起きたのは2002年1月10日。横浜市内で大型トレーラーの左前輪が外れ母子3人を直撃。長男と次男は軽症だったが、母親は死亡。
製造元の三菱自工は、事故原因を「運送会社側の整備不良」と主張。しかし、神奈川県警の捜査により、車両に構造的欠陥があったことが判明。
三菱自工は2004年3月、製造者責任を認めリコールを届け出る。さらに同年5月、三菱自工の副社長ら5名が道路運送車両法違反、品質保証部門の元担当部長ら2名が業務上過失致死傷容疑で逮捕。三菱自工も道路運送車両法容疑で刑事告発された。
2012年2月、有罪判決が確定。
実際は映画とは異なり、三菱自工の非は暴かれたものの、運送会社に対する世間の非難は厳しく、廃業に追い込まれてしまったとのこと。

現実社会で、正しいことを行うことの如何に難しいことか。ただ、「空飛ぶタイヤ」が、正しく生きることへ、勇気を与えてくれていることだけは間違いない。

石鹸玉人生百景すぐ消ゆる 松山足羽

遠藤若狭男氏から、著書「人生百景-松山足羽世界」をいただいた。俳人 松山足羽の人生と句を追った俳人論である。
足羽は、福井市生まれの俳人…1922年2月1日生まれ、1979年「人」創刊同人、発行所代表、1988年「川」創刊主宰、句集『究むべく』等

読み進めるうちに、松山足羽の残した数々の句とともに、足羽の言葉に感銘を受けた。
「私は私の俳句手帖の見開きに自らの座右の銘を墨書きしている—心と身体を俳句に保つ。己をたしかめて句を成す。まだ言えていないから吐露すべきだ。人生を歩く、人生に座らない。それが人格に現れる。生き方に現れる。」

好きな松山足羽の句を…
一月や徒手空拳の腕二本
個人タクシー出て頭垂れ広島忌
草笛の青の中なり最上川
野鼠のひつこみつかぬ桃の花
秋風や亀を出たがる亀の首
竹人形前かがむほど春の雪
気の遠くなるほど眠り雪景色
竹の春だんだん顔が淋しがる
透析の空とんぼうの空となる
病院の妻へただいま秋の暮
肝心なものをわすれて豆の飯
湯河原へ春の帽子になつてゐる
かなかなのかなに悲しみ込めて鳴く

この書を読むまで、松山足羽のことはほとんど知らなかった。
読後、遠藤若狭男氏が、「俳句史にいつまでも残しておかねばならぬ俳人の一人」と述べられているが、その理由がよく理解できた。いい書に出会えたことに感謝。

「人生百景ー松山足羽の世界」  遠藤若狭男 著  本阿弥書店
第13回 日本詩歌句協会・日本詩歌句随筆大賞 大賞受賞(評論部門)

遠藤若狭男: 「若狭」主催 俳人協会監事 日本文藝家協会会員

風天 渥美清のうた

渥美清さんの句が世に知られるようになったのは、彼の死後。俳号は風天。主宰者を置かない同好の句会に参加し、句を詠むこと、そのことを楽しみにしていた。
同好の句会とは、「アエラ句会」「話の特集句会」等々。素人ばかりの遊びの句会であった。「アエラ句会」ではいつも静かに壁に向かって句を詠み、終われば黙って姿を消してしまうということであったらしい。句会では「会計の渥美清です。」と自己紹介。
「話の特集句会」…素人の集まりとは言え、永六輔、小沢昭一、岸田今日子、色川武大、吉行和子、山藤章二、和田誠他…驚くばかりの顔ぶれである。
本書は、そのいくつかの句会で詠まれた風天の句を丹念に集めて紹介。併せて、渥美さんの知られざる一面を語っていくというもの。
やさしい眼差しと静かで哀愁のある渥美さんの句に触れることができた一冊であった。

中でも好きな句をいくつか…

名月に雨戸閉ざして凶作の村
好きだからつよくぶつけた雪合戦
いみもなくふきげんな顔してみる三が日
テレビ消しひとりだった大みそか
鍋もつておでん屋までの月明り
はえたたき握った馬鹿のひとりごと
芋虫のポトリと落ちて庭しずか
赤とんぼじつとしたまま明日どうする
村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
いわせれば文句ありそなせんべい布団
年賀だけでしのぶちいママのいる場末
達筆の年賀の友の場所知らず
小春日や柴又までの渡し船

渥美清のうた   森英介 著  大空書房

花水木と先代萩 / 樅木は残った 山本周五郎

花水木と先代萩

「伽羅先代萩」と「樅ノ木は残った」

黄色の花「先代萩 センダイハギ」の名は伊達騒動に由来するとのこと
「伽羅先代萩」は、伊達騒動をあつかった歌舞伎の演目。仙台伊達家の三代藩主である伊達綱宗は吉原の遊蕩にふけり隠居させられる。これはお家乗っ取りをたくらむ家老原田甲斐と伊達兵部ら一味の企みであった。
甲斐一味は伊達綱宗の後を継いだ亀千代(四代藩主 伊達綱村)の毒殺を図るが、忠臣 伊達安芸の画策により失敗に終わる。原田甲斐は抜刀し伊達安芸を斬るが自らも討たれ、伊達騒動は終わりをつげるというストーリー。

原田甲斐は歌舞伎の演目では悪役ですが、山本周五郎「樅ノ木は残った」では全く違った原田甲斐の生き様が語られています。是非、一読をお勧めしたい一冊です。