鯨の眼

読初は成田三樹夫の「鯨の眼」

風の日にまたきかせてくれよ岩桔梗

暮に友人のfacebookで、成田三樹夫さんの句集があることを知り購入。成田三樹夫さんと言えば、この書を読むまで、悪役・敵役を演じていた俳優さんというイメージでした。

成田さんが句を詠むようになったのは、鬼籍に入る八年ほど前から。初めは、年賀状に添える句を詠まれていたらしい。癌を患った入院後は、読書のかたわら詠んだ句をノートに記されていました。ノートには句の他、読書記録、詩も記されています。
大変な読書家。リストを見て、成田さんの知的な精神世界の深さ、感性の鋭さに驚くばかり。
句集は、成田さんが亡くなられてから編纂されたもの。序文は、夫人の温子さんが書かれています。序文を読むだけでもこの書を買ってよかったと思うほど… 飾ることなく、とつとつと語られる文章に、仲睦まじいご夫婦の絆を垣間見るようで温もります。

正月早々、何回も読み直した一冊でした。

目が醒めて居どころがない
背をのばせばどこまでも天
五十億年寝返りうつやこぞことし
雀の子頭集めて宮まいり
書を捨てて風のひとふき読みに出かける
清水のむ馬ののんどや秋の空
妻の音にぐんにゃりとなる留守居かな
ものみなよく見えてきてはるかなり
力が抜けて雲になっている
海山の母のごとくや月見草
母の背やかかとに下駄のあたる音
風の音か息の音か
脚を抜かれしパンツに手が届かない
太陽べろろん去年今年
一瞬大空のすき間あり今走れ
春ゆくや煮こごりのくづれゆく
物云いたげな急須の口や秋深し
ふんどしの子等の尻みて涼をとり
陽をうけて背中をかえす椿の実
時計の音それはピノキオ妻来る日
腹ばいてひとり雛菓子みあげけり
初富士をあおいでぐるり喉ぼとけ
身の痛みひと息づつの夜長かな