ますほの小貝

ますほの小貝

敦賀湾に面する色が浜、透き通るように美しく海が広がり、遠方に砂の小島が浮かびます。
奥の細道の旅で、芭蕉は西行の歌にある「ますほの小貝」を拾おうと、色が浜へ舟で渡ります。芭蕉は、わずかに漁師の小さな家があるだけの静かな浜のお寺で、茶を飲み、酒を温めて過ごしたということです。

波の間や小貝にまじる萩の塵  芭蕉 
小萩ちれますほの小貝小盃  芭蕉
 
潮染むるますほの小貝拾ふとて色の浜とは言ふにやあるらん  西行

諸説あるそうなので定かではありませんが、「ますほ」とは、どうやら「赤い色をした」という意味のようで、どうもある特定の貝のことを言っているのではないらしいです。

明日から三月。来月もよろしくお願いします >^_^<

中村吉右衛門 熊谷陣屋

昨晩、NHKで「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」がノーカットで放映され、中村吉右衛門さん渾身の舞台を偲ばせていただきました。

一枝を伐らば、一指を剪るべし
源氏の武将熊谷次郎直実の陣屋、源義経が、熊谷が持ち帰った平氏の若武者平敦盛の首実検を行います。その場には、熊谷の妻 相模と敦盛の母 藤の方が居合わせています。
しかし、熊谷が差し出したその首は、敦盛のものではなく、熊谷の息子 小次郎のものでした。熊谷は、取り乱す妻と藤の方を制し、「一枝を伐らば、一指を剪るべし」と書かれた義経の主命の制札を手に義経の言葉を待ちます。義経は、身替りの首を実検し、敦盛に間違いなしと断言します。

義経は「一枝を伐らば、一指を剪るべし」の制札に事寄せ、熊谷直実に、敵の武将 平敦盛の命を助けよと命じていたのでした。
熊谷は主命にこたえるため、同じ年頃の息子小次郎の首を身替りにしたのです。

敦盛を救う務めを果たした直実は、義経に出家を願います。墨染めの衣に身をつつみ、息子小次郎が生まれてからの十六年が夢のようと、立ち去っていきます。

大義の前に、わが子の命さえも犠牲にするのが武士の社会であったとは言え、子を討った悲しみと嘆きに涙した吉右衛門さん渾身の舞台でした。

餅花

一月七日
今日は人日。古来中国では、一月一日を鶏の日、二日を狗(犬)の日、三日を猪(豚)の日、四日を羊の日、五日を牛の日、六日を馬の日と定め、それぞれの日にはその動物を殺さないようにしていたということです。

さて、七草粥をいただくことにいたしましょう。

お雑煮

「すまし」「赤味噌仕立て」「白味噌仕立て」「小豆汁」と、地域によりいろいろな雑煮の楽しみ方が・・・
私のところはとってもシンプルな白味噌仕立てのお雑煮です。

KGBの男-冷戦史上最大の二重スパイ

The Spy and the Traitor
KGBの男-冷戦史上最大の二重スパイ ベン・マッキンタイアー

サマーセット・モームやジョン・ル・カレのスパイ小説を凌駕する面白さ。
本書はKGBの上級職員でありながら英国情報機関MI6の協力者となったオレーク・ゴルジェフスキー氏および関係者への取材に基づく実録。巻頭の東西情報員たちの写真も興味深く、数枚の写真は、当時、極秘の写真であったことでしょう。
ゴルジェフスキ―氏がMI6の協力者となったのは1974年。MI6は、氏の正体がKGBに露見した場合に備え、氏をソ連から英国へ脱出させる計画を同時進行しつつ、情報活動をすすめます。・・・1985年7月、脱出計画作戦名「ピムリコ」が発動されます。
大韓航空機撃墜事件、フォークランド紛争、グラスノチ、ペレストロイカ、ベルリンの壁等々の言葉が思い出される時代のドキュメンタリー。インテリジェンスと外交、情報機関と政府との関係など興味深い事実を知ることができました。

情報機関は対象国内に情報提供者・協力者・工作者をリクルートし情報活動を行うのが常道。リクルートの対象となるのは対象国の役人、政治家、ジャーナリスト、財界人など政治経済、世論の形成に影響力をもつ人々。
マーガレット・サッチャー(保守党)が首相を務めていたとき、労働党の党首であったマイケル・フット氏が、ソ連側の情報協力者として多額の報酬を受け取っていたというのは驚きでした。フット氏はこのことが公になった時、名誉棄損の訴訟をおこし勝訴していますが、レーニンの言うところの「有益な愚か者」であったのかもしれません。「有益な愚か者」とは、うまく利用すれば、本人の自覚なしに、操縦者の意図する目的に賛同させることもなく、こちらのプロパガンダを広めさせることができる人物の意だそうです。   

ある情報機関幹部は、対象国のスパイをスカウトする際、以下の助言を情報員に与えたということです。
「運命や生来的特徴によって傷ついているものを探せ。・・・劣等感にさいなまれている者、権力や影響力を求めているが不利な境遇のため挫折した者たちだ。」
スパイ活動を行う四つの動機は、MICE・・・Money(金銭)、Ideology(イデオロギー)、Coercion(強制)、Ego(自尊心)なのだそうです。金銭的報酬を与えること、弱みを握り恐喝すること、政治的信条により共感させること、社会的認知を与えることにより自尊心を満足させることにより、対象人物をスパイとしてリクルートしていくことができると・・・なるほどと納得した次第です。