世界史の極意  佐藤 優 

昨年秋、佐藤 優氏が菊池寛賞を受賞されたと知り、氏の著書を何冊か再読した中の一冊。

本書は「多極化する世界」「民族問題」「宗教紛争」の三章で構成されています。
筆者は、現在の状況を正確に捉え見通すため、世界史をアナロジカルに観ることが必要と説きます。「アナロジカルに歴史を見るとは、いま自分が置かれている状況を、別の時代、別の場所に生じた別の状況との類比にもとづいて理解するということ。アナロジー的思考は、論理では読み解けない、非常に複雑な出来事を前にどう行動するかを考えることに役立つ。」
ここ数年間の国内外の混乱は誰もが知る通りですが、2015年に上梓された本書をあらためて読むと、なるほどと頷くことが多いです。蟻の眼的、刹那的、煽情的な報道が多くなった時代、いい書に再会できたと思います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
アナロジカルに見た近代史の歩み・・・
  • 資本主義は必然的にグローバル化を伴って、帝国主義に発展した。
  • 1991年のソ連崩壊によって、再び資本主義は加速し、新・帝国主義の時代が訪れた。
  • 帝国主義の時代には、資本主義がグローバル化していくため国内では貧困や格差拡大という現象が現れる。
  • 冨や権力の偏在がもたらす社会不安や精神の空洞化は、社会的な紐帯を解体し、砂粒のような個人の孤立化をもたらす。そこで国家は、ナショナリズムによって人びとの統合を図る。同時に、帝国内の少数民族は、程度の差こそあれ民族自立へと動き出す。
  • 「見える世界」の重視という近代の精神は、旧・帝国主義の時代に戦争という破局をもたらした。
  • 現在の新・帝国主義の時代において、目には見えなくとも確実に存在するものが再浮上してくる。
アナロジカルな視点の必要性・・・
  • 私たちは「見えない世界」へのセンスを磨き、国際社会の水面下で起こっていることを見極めなければならない。
  • 歴史には国家によって、民族によって複数の見方がある。歴史は物語であるという原点に立ち返る必要がある。
  • 立場や見方が異なれば、歴史=見方は異なる。世界には複数の歴史がる。そのことを自覚したうえで、よき物語を紡いで、伝えることが重要である。
  • 戦争を避けるために、私たちはアナロジーを熟知して、歴史を物語る理性を鍛えあげていかなければならない。