COVID-19  木村盛世 

とてもわかりやすく、感染症に関する基本的な知識、COVID-19についてデータからわかる事実とわからないこと、現状と課題等が俯瞰的に述べられていました。著者の経歴を拝見すると、米国CDC(疾病予防管理センター)のプロジェクトコーディネーター、厚労省の医療技官をされていたよし。

COVID-19

日本の医療体制、感染症に関わる法体系のことも述べられています。
平時はうまく機能していても、有事の際は、大変脆弱なシステムであることがわかり、現システムの中で対策を講じていくのは大変なことです。
ロックダウン(外出禁止令)について、集団免疫がない状態で感染症の拡大を防ぐには有効な手段。しかし、解除すれば再び感染症は広がる。社会経済活動を止めたり緩めたりするという戦略は、感染症の基本的な性質上、何度も繰り返す必要が出てくるとの説明。なるほどと実感。

ゼロコロナなどというのは夢のまた夢で、ワクチン接種、治療薬の開発が進むまでは、辛抱強く、マスク、手洗い等々の予防策を続けていくほかなさそうです。

昨今の報道に、煽られることなく、冷静に接することができるようになる書です。
以下は、書の内容の簡単なメモ書き・・・お時間があれば >^_^<

感染症の基本

  1. 短い期間に複数の人々にうつす。指数関数の法則・・・感染者が1週間に2.5人の人にうつしたと想定すると20週間後には約9,000万人の人が感染することになる。
  2. 2 いったん感染して治ると、少なくとも当面の間は、再び感染することがないし、他人を感染させることもない。

集団免疫

一気に感染が広がれば感染者数は増加するが、同時に治る人も増え、回復した人は免疫を持つ。免疫をもった人が増えていくと、本来免疫のない人も感染しにくくなる状況が発生する。

変異種

変異種は、致死性が高いかどうかはわからないにしても、拡がりやすい性質がある。

医療崩壊

医療崩壊とはICU(集中治療室)の崩壊を意味する。
もともと日本は先進諸国の中でICUとそれに対応できる医師数は不足している。新型コロナウィルスを受け入れている医療機関は一部であり、この一部の医療機関への負担が問題。
医療キャパシティを増やすことが必要。そうすれば、人の行動を抑制する期間と緩める期間の間隔を長くすることができ、徐々に感染者数を抑えていくことができるとの報告もある。

数のインパクト

疫学では、絶対数よりも率を重視する。死亡率1%の感染症なら100人の内1人が死亡するという確率。1000万人なら10万人となる。日々の報道に接している一般人は10万人という絶対数に注目してしまう。

パブリックヘルス(公衆衛生)と臨床医学

パブリックヘルスとは、医療だけでなく免疫学、獣医学などの基礎医学や、社会経済的分野を含めて医療保健を扱う概念。パブリックヘルスの立場から考えると、若い世代の中に稀に重症化する人がいても、それが確率として低ければさほど重要視しない。一方、臨床医学では、一人の患者として、その治療に専念する。
対策を個人におくか、集団すなわちマスに重きをおくかで、対応は違ってくる。
ワクチンはパブリックヘルスの最も代表的なツール。副反応という有害事象が一定程度あったとしても予防効果がそれを上回る場合には集団に導入する。

感染症に関わる法体系・・・検疫法・感染症法・特措法

  1. 検疫法(厚労省医薬・生活衛生局 活動主体は厚労省の出先機関 検疫所)
    国外からの感染症の侵入防止が目的。
    いったん国内に入った感染症拡大防止はこの法律の対象外。検疫所の職員は国際線ターミナルの制限区域に立ち入ることはできるが、国内線旅客ターミナルに立ち入ることはできない。
  2. 感染症法(厚労省健康局 活動主体は地方自治体の保健所)
    国内の感染症拡大防止が目的。
    感染症法に指定された感染症が発生した場合は、医師ないし医療機関が保健所に届けるというのが法律の骨子。
    厚労省は国で決定された事項を「通知」あるいは「事務連絡」という形で地方自治体に依頼する。
  3. 新型インフルエンザ等対策特別措置法(内閣官房)
    国内の感染症拡大防止が目的。

役所は法令順守を第一義とする。現在の法体系が現状にそぐわず、国家として一元的に危機管理ができる法体系を整備する必要があるとは、著者の見解。