花衣ぬぐやまつわる

五年をかけた丁寧な取材による杉田久女とその時代。残された名句とともに、優しい眼差しで久女と彼女が生きた時代が語られている。

甕(かめ)たのし葡萄の美酒がわき澄める
足袋つぐやノラともならず教師妻
鶴舞ふや日は金色の雲を得て
谺(こだま)して山ほととぎすほしいまま
露草や飯(いい)噴くまでの門歩き
朝顔や濁り染めたる市の空
夕顔やひらきかかりて襞(ひだ)深く
花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ

下町ロケット

「半沢直樹」の原作者,池井戸 潤さんの作品。主人公は佃 航平というロケットエンジンの研究者。ロケットエンジン開発失敗の責任を取って研究所をやめ、佃製作所という町工場を親から受け継いだところから物語は始まる。当初,佃製作所の業績は好調であった。ある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的に形勢不利の中で取引先を失い、佃製作所は資金繰りに困り果てることになる。

創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が所有している特許技術を買い取ると言ってきた。特許を売れば窮地を脱することができる。しかし、その特許技術には、佃 航平の夢が詰まっていた。「お前には夢があるのか? オレにはある」と佃航平は,難局に立ち向かっていく。・・・・

おくのほそ道 素龍清書本(復刻版)

敦賀は「おくのほそ道」の最後の歌枕です。芭蕉は、元禄二年の秋、敦賀に入り、色ケ浜で清遊した後、杖と笠を敦賀に残し、大垣へと旅立ちます。敦賀が「杖おきの地」と言われる所以です。

芭蕉は、千住大橋から始めた旅を終え、五年の歳月をかけ「おくのほそ道」を完成します。門人の柏木素龍がこれを清書。清書本の巻末には「元禄七年初夏 素龍書」の文字があります。芭蕉はこの清書本を肌身離さずもち歩いていたということです。
芭蕉の死後、素龍清書本は、向井去来、京都の久米升顕、小浜の吹田几遊、敦賀の白崎琴路をへて、敦賀の西村野鶴の手に渡ります。以来、西村家で大切に保管されてきました。

この西村家所蔵の「おくのほそ道」素龍清書本の復刻版があることを知り、過日、敦賀市博物館で購入してきました。(木箱入りで定価3,000円でした。)
ありがたいことに活字に起こした別冊がついており、こちらを頼りに、ほんとにぼちぼちと読んでいるところです。

十四日の夕暮れ、敦賀の津に宿を求む
月清し遊行のもてる砂の上 

十五日、亭主の詞にたがはず雨降る
名月や北国日和定めなき

橋本多佳子句集

橋本多佳子の句集をなんとか手に入れたいと思っていたところ、FBで懇意にしていただいている友人から俳句関係の書を譲り受ける機会があり、その中の一冊に・・・小躍りしました >^_^<

本書は、多佳子の全作品の中かから三百句を掲載。選はご息女で俳人の橋本美代子さん、多佳子が好んだ句を中心に選をしたとあとがきにあります。註も幼き頃より母を知る娘ならではのもので、浅学の身にはとても勉強になりました。

橋本豊次郎と結婚し九州小倉市中原の櫓山に住むことになった多佳子は、高浜虚子の歓迎句会を機に俳句を志します。杉田久女との交流もこのころより始まり、このあたりのところは田辺聖子の「わが愛の杉田久女 花衣ぬぐやまつわる」に詳しいです。

波に乗る陸の青山より高し
ひとの子を濃霧にかえす吾亦紅
みどり子もその母も寝て雁の夜
七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ
つまづきて修二会の闇を手につかむ
蟻地獄孤独地獄のつづきけり
凍蝶のきりきりのぼる虚空かな
恋猫のかへる野の星沼の星
月天へ塔は裳階をかさねゆく
寒月に焚火ひとひらづつのぼる
星空へ店より林檎あふれけり
八方へゆきたし青田の中に立つ
踊りゆく踊りの指のさす方へ
みつみつと雪つもる音わが傘に
秋刀魚競る忘れホースの水走り
一人の遍路容れて遍路の群増えず
死を遁れミルクは甘し炉はぬくし
いくらでもあるよひとりのわらび採り
げんげ畑そこにも三鬼呼べば来る
なんといふ暗さ万燈願みる

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一日一花 川瀬敏郎

一日一花。一月一日から翌年の三月三十一日まで、日々生けられた草木花の写真集です。生けられているのは山野や道端で採取したものばかり。
川瀬敏郎さんのなげいれと一言を、日々愉しんでいる一冊です。
巻末にはなげいれにつかわれた草木花の植物名索引もあり、これもまた重宝します。

「私がとりくんだのはなげいれの花でした。なげいれにつかうのはあらゆる花です。花をさがしにいくたびも山野へ足をはこぶうちに、きれいに咲いた花にもまして、虫に喰われ、風雨に傷つき、息も絶え絶えに枯れきったものなど、生死をおのずと思わせる花々につよくひかれるようになりました。・・・道端で眼にした、なんでもない一本の草が、いけることで、ときには崇高でさえある姿を見せてくれるのですから、楽しくないはずがありません。・・・ 川瀬敏郎 」

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食卓は笑う 開高 健

開高 健さんが、アラスカから南米大陸の最南端までおりていく旅から帰ってからしばらくし、サントリーの佐治敬三氏と食事をする機会がありました。南米で聞かされた小話を紹介したところ、佐治氏は体をのりだして、「ウチの広告に酒のサカナとして連載してくれや」と。話は進み、毎月一回、一年間にわたって毎日新聞に連載された後、出来上がった本。
たしかに面白いのです。食事やお酒を呑む時はたのしいお話がいいですね。
本文イラストレーションは、柳原良平さん、加藤芳郎さん。